どうにもこうにも解せないのは、おれに憑いているのが女の霊と云うことである。
「……何故だ」
「なにいってんのさ。あんたがあたしを殺したんだろ」
霊は言う。おれの耳元で。残念ながらおれにはそれが聞こえるし、女の姿も確かに見える。おれは刀を抱えたまま、髭の伸びてきた顎を撫でた。
「覚えが無いわ!そもそもこの三浦勘兵衛、女を切るような下郎に見えてか!」
「見えるね。あたしにはよぉっくみえる」
おれはがくりと頭を垂れた。本当に覚えが無い。女の顔がすぐそこにあった。近くで見ると美しいが、如何せん幽霊である。おれは今更ながら女の姿をまじまじと見た。もはや怖くも何ともない。慣れの方が恐ろしいものだ。
赤い着物を纏った青白い顔の女はどう見ても吉原の者である。年のころはおれと同じほどだろう。しかしおれは女を買う金もない浪人だ。顔に覚えもないし――
「……お前、名はなんといったか」
「やだねぇ六助さま、お香だって言ったじゃないか」
きゃらきゃら笑う女は違う名を呼ぶ。やはりおれではない。
「女、俺は勘兵衛だと――」
「今はそんなんだろうけどね、姿かたち名前が違ったって此処が一緒じゃねぇ?」
細い指がおれの胸を指した。くらりとする。もしや、もしや――
「ねぇ六助さま、あたしの呪い殺しは効いたかえ?」
――ああ、女の恨みは末恐ろしい。
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ヨシワラコトバがわからない…
六助は勘兵衛の前世。
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