守護獣には二種類がいる。守護獣として生まれたものと、現世で死んだ動物が守護獣として生まれ変わったものだ。私は後者である。三鬼では私だけがそうであったため、暗黒魔とも銀月とも馴染めないでいた。今となってはいい思い出だ。
私は今も昔も狐だった。山に住み、悪さをしに里へ下りたり、鼠や鳥を狩ったり、自由気ままに生きていた。
ある日里に下りた時、一人の人間に会った。男は妙な気配を放っており――今考えると、あれが陰陽師というやつだったのかも知れない。私はよく奴を追い掛けるようになり、奴も私を含め山の動物たちを慈しんでいたようだ。
動物の命は短い。男と出会って何年かののち、私は老いを感じるようになっていた。山の小動物が獲れなくなり、里におもむいて食料を得ようと彷徨っていた。そして――斬られた。後に都で「鬼」と呼ばれるようになる――「神子」に。
死にかけた私はあの男に拾われ、看病され、一日の大半を奴と過ごした。歩けるようにこそなったものの、やがて寿命で死んだ。男は妻との間にやっと子供が出来て、私も密かに生まれてくるのを楽しみにしていた――けれど死んだ。そして次に目覚めた時、私はすでに――その子供の守護獣になっていた。
「私は産声で起こされたわけだ」
ぱたり、と尾を反対側に倒して、私は息を吐いた。三つの尾はかさばる故に扇状に広がる。
「……じゃあその陰陽師さんが、僕たち上神田の先祖ってわけ?」
「そうなるな。どういうわけか因縁が強く、未だ私はお前達のもとにいる」
私は頭を前足の上に乗せ、小さく息をついた。多くを語るのは疲れる。月代の手は相変わらず私の体を撫でている。
「その鬼っていうのは?」
「覚醒した神子で、"力"で都を騒がせていた奴らしいな。昔あやかしと呼ばれていたものは皆神子か守護獣だ」
「そーなんだ……」
月代は静かに手を動かす。私は月代を目だけで見上げた。彼は考えこむ所作をして、ゆっくり言った。
「氷鬼は神子を憎まないの?」
目を丸くして顔を上げると、月代は眉根を寄せてこちらを見ている。私は既視感に襲われて、一度瞬きをした。
「……同じ事を言う」
「え?」
「あの男とだ」
私は口を噤む。月代は似ているのだ――あの陰陽師に、そして初代"氷鬼憑き"のあの娘に。
「……憎んではいないが。これは運命なのだろうな。私の名に『鬼』という字が入るのも、何かの縁なのだろう」
空は青く澄んでいる。太陽も真上から少しばかり西へ移動したようだ。私は立ち上がると、まだ渋い顔をしている月代を鼻で押した。
「さぁ、お前は飯を食って来い。用意しているのは弟子どもなのだろう?」
「うん……でも」
「やつらだって人間なのだから待たせてはかわいそうであろ」
月代はしぶしぶ立ち上がって、私の頭をなで、「行ってくるね」と小さく言って背を向けた。話すべきではなかったか、と思う。魂で繋がっている私達はお互いを感じあえる。月代の複雑そうな気持ちを漠然と受け止めながら、私はもう一眠りしようかと欠伸をした。
「こおりおにっ!」
廊下の向こうで突然私の名を呼ぶ声が聞こえ、私はぴんと尾を立てた。月代だ。私はそちらに顔を出す。
「話してもらえて嬉しかったよ!」
先ほどとは違う笑顔に、私は拍子抜けしてしまった。月代は複雑そうだ。それはまだ感じている。なのに。
「……ああ」
私は何かがすとんと胸に落ちていくように思った。妙にすっきりした気分だった。だから月代なのか――私の、宿主が。
「――ありがとう」
私は引きずられる意識をそのままに、形を保つ事も忘れて再び眠りについた。
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実は亮ちゃんたちよりもこのペアが先に出来てました。一番最初に出来たのは秀一×暗黒魔だけれども。
一角狐って好き…(←
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